グローバル・ラノベと政治同人誌だよ。

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日本の終わりとハードボイルド・ワンダーランド3

 


数年前のムカイは、作物を売る会社で派遣社員をしていて、皆川村というところに出張へ行った。

作物ブローカーの商売をやるには、田舎の人たちと懇寧にしなくてはならず、

取引先の地域が主催する、皆川村娘っ子フェスティバルみたいなのに、出なくてはいけない。

出なくてはならないし、出れば新しい商売のタネも転がっていると、社長の小酒井は言っていた。

10代くらいのヒラヒラしたミニスカートというか特殊な衣装の女の子たちが、舞台の上を言ったり来たりするのを、同僚の女性のアルバイトが不思議そうに見ていた。

「彼女たちは、何なんですか?芸能人なんですか?」

「っていうか、牛の品評会みたいなやつだよ」
小酒井の物騒な発言に、一座の視線が集まった。
「小酒井さんって、俺はジェントルマンみたいな顔してるけど、言うこと意外とひどいんですね。普通に、可愛い感じの子いましたよ。牛ってことはない」

「ひどいのはお前らだよ。これは田舎の経済の現実なんだよ。
彼女や親たちは、良く言えば結婚相手、悪く言えば、身売りの相手を見つける為に、やっているんだよ」

小酒井は、この手の話に一家言あるのだろうか。

俺にはそんなものは無い。

彼は確かに、こういうイベントにはしょっちゅう出ているのかもしれない。新種の苗を売り込むには、田舎を回らないといけない。

都心へ出てアルバイト先を探すほどの根性がない、小心な少女たちが引っかかる、ブラック企業の集団面接会みたいな感じ。

ムカイは既に、こんな山奥くんだりにまで、来なければよかったと思い始めた。

そもそも、彼女たちは俺と同じで、まともな教育を受けていないから、出るところは彼の言うところの牛の品評会くらいしかない、か。

まるで幼少にして親に売られた俺の身の上を風刺するような物言いが続き、胸に刺さるが、本当なので仕方がない。

目を逸らすと、客席には、アイドルオタク以外に、何が目的かよくわからない柄の悪そうなオッサンなどが混じっていた。

業者?転売目的?闇は深そうだ。俺は転売とかされなくて良かったと、ひとまず安堵しておくべきか。

俺は運良く生き延びて、こうしてここにいる、それでいい。

これはしかし、都会の人から見ると、ありえない、というだけで、

小酒井の言う通り、田舎では、そういう人の流れ自体、神事とされている。ということを、ムカイはおぼろげながらに覚えている。

だから母さんは、自殺したのかもしれないし、そうでないかもしれない。貧しい村の死にたくなる要素は、1つだけではない。

「この衣装とかステージに出る費用は、女の子の自前で、借金なんだよ」
「詳しいですね」
「その辺の子に、話しかければいろいろ教えてくれるよ」
「何話すんですか。気まずくないですか」
「どんな男が好みなの、とか、イイ男を探してあげようか、とか」
「それで、探してあげるんですか」
「場合によっては」
小酒井は少し目を泳がせた。
「小酒井さん、何か変な商売やってないでしょうね」
「このイベント自体が変な商売だよ」

ムカイたちの会話が一旦止まった。20年くらい前の歌謡曲が、古いスピーカーの変な音響で辺りに流れている。

「田舎者は嫌だねって顔してるよ」
「都心のアイドルだって胡散臭いじゃないですか。変質者にストーカーされて死ぬために存在するみたいな」
「牧野は、アイドルとか根本的に白い眼で見てる」
「見てません。何か割に合わないと思っているだけです。私だったらやらない」
「私だったらやらない、かよ」
「だったら小酒井さんは、起業セミナーに参加する人とか、取れない資格の勉強する人とか、どう思ってるんですか」
「別に。本人の自由だよ。人生、無駄な回り道もある」
「ステージ上の彼女たち、アレは無駄な回り道なのか?」
「俺は同じ大学を3回受けて落ちたことがあるよ」

「ここは、駆けだしの中小企業だし、そういう人しかいないよ」


「男の人って、こういうの、そそられるって聞きましたけど」
牧野が、ニヤニヤしているのか、怒っているのか、分かりにくい表情で、(どうやら)ムカイに言ってくるが、
何で俺に聞くんだろう、小酒井に聞いてほしい。

まず、俺って男の人って感じじゃないじゃん。じゃあ何なのかっていわれると困るけど。

ほとんど闇企業のヘタレ従業員の俺よりは、小酒井の方に気があるはず、知らないけど。

小酒井だって闇企業の社長ではあるけど、闇企業の従業員よりは良いじゃないか。小酒井は男の代表っていう感じだ。男前だし、社長だし。

「いや、俺にはわからない趣味だけど」

これ以上俺の出身地の暗部をつつくのは止めて欲しい。


「分かろうが、分かるまいが、お前は夜の部にも出るんだよ」
「はあ、夜の部ですか」

「こういうものの、需要は、牧野みたいな生意気な女がいるから」
「ほら」
牧野は、勝ち誇ったような、蔑むような目で、小酒井を見た。