グローバル・ラノベと政治同人誌だよ。

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日本の終わりとハードボイルド・ワンダーランド10

 


「ハンナ・イエレン」と書いてある。

名刺交換は世界中にあるが、特に日本人は好きだ。

何は無くても名刺交換、そしてポケモンカードみたいにコレクション。

イエレンの働いているオフィスで、あまり、そういう風習はないけど、持っていた方が、日本では働きやすい。

日本人の多い団体などを相手にするとき、彼らはヨソモノを警戒するから、

自分たちは日本のしきたりを弁えていますっていう姿勢を取ると、反応が違う。

お辞儀をして、全てが日本語で書いてある名刺を差し出すこととか。

ココでは霞が関や大企業の名刺は効いても、国連の名刺はピンと来ない人が多い。

ドメスティックな産業従事者のほとんどはそうだった。

経済特区には、国連ですか?何かオイシイ仕事ありますか?っていう会社もたくさんあるのだけど。

「ハンナ・イエレン」

イエレンは半分日本人だから、日本の名前も持っているけど、この名前の方が、が効いた。

ただ、ヘブライ語や英語で書くと、相手に読み方が分からないので、カタカナで書いてあるのが変な感じ。

英語の名刺は既に持っていた。

 

 

 


「今時、こんなところで名刺を作ってくれる人は、珍しいよ」
「何件も回ったんですよ。こういう、小さな文具屋って感じのところ。
名刺なんてもう、やっていないってところが多くて」
「今はインターネットで注文したり、自分で作ったりするからね」

「他にはどういう人が来るんですか?私みたいな変な外人以外だと」
「80、90のじいさんなんかだね。でも、そういう人に限って、会長、名誉顧問、なんて書いてあって、人に大量に名刺を配ったりしているから」

「私は名誉顧問なんて、200歳まで生きても無理だわ」
「ワシもだな。まあ、ワシの肩書は店長って書いてあるけどね」
「そうなんですか」

「嘘だよ、ワシは名刺なんか持ってない。あんたみたいに、配る相手もいないし」

「私は、こういうのを持ってないと、どこかの野良犬が何しにやってきたんだとか、そうでなければ、観光客だと、間違われるから」


イエレンは文具屋を出ると、焼き鳥屋に入って、昼食を済ませた。タレの焦げたような香りが店内に充満している。煙はほとんど出ていなかった。

こういうのはイスラエルに輸入しても、当たるのではないだろうか、衛生管理が楽そうだし。

炙った鶏肉にテリヤキのタレをかけるなんて、あの辺の砂漠地帯にも、似たものはたくさんあるけど。

鶏肉を食べるのは、どの宗教の禁忌にも当たらない。

こういう日本食なんかをフランチャイズにして世界展開し、一通り儲けた後、

ブームが終わったらその系列を畳んで、

また他の食材へ移る、という商売をしている友人を、イエレンは思い出した。


イエレンは昔、アメリカの南西部の州で、

寿司を食べて当たったことがあった。カルフォルニアロールとかが入ってない、生粋の寿司だった。

たまたま、店が悪かったのだが、それにその店員は、日本語じゃない何かをしゃべっていた。

でも、それ以来、寿司を食べると、また当たりそうな気がして食べられない。

カウンターの隣の客が、鶏肉を串から外して食べているイエレンを、変な目で見ていた。何よ。別にルール違反じゃないし。

串に刺したまま食べると、下の方についている鶏肉を食べるときに、串が喉に突っかかって食べにくい。横から食べても、難しいし。

彼は、焼き鳥を串につけたまま食べていて、こうやって食べるんだよ、みたいなジェスチャーをしている。彼は、横から食べている。

 

 

 


「ノリは、何か闇で活動してるの」
「闇」

「言いたくないなら言わなくても良いんだけど。また人に聞かれると困るし」

「またダックスフンドみたいな車に連れ込まれる。4番目くらいの後部座席に」

「心配してくれないの?今度は中にオッサンが100人くらい詰まってるかもしれないよ。有益な情報を提供しなければ、殺す、とか」


「本当は俺はムシャデヒンなんだ」

「そうなんだ」

「いや、嘘なんだけど」

「そう。嘘なの。私はムシャデヒンの知り合いいるよ」

「その人は、今、何をやってるの?偽造クレジットカードの作成とか?」

「現役のムシャデヒンなんて、ほとんどいないよ。下放だってもうやってないんだし、活動する必要ない」

「なら、そのマスミの知り合いのムシャデヒンは、もう足を洗ったの?」

「止めた。日本のデータベースが、アノニマスにハッキングされときに、

そういう、誰が反逆者とかそういうことは有耶無耶になって、

日本列島に住んでいる人の、全員のIDが復帰したんだって。それでムシャデヒンは、地下に潜る必要がなくなった」

アノニマスは、タチの悪い独裁政府や、大組織の横暴に立ち向かう、不特定多数の世界中のハッカーの連盟だって言われていた。

メンバーシップは存在しない。

インターネット上で行動を起こした人がそれを名乗って、その方針がアノニマスに合っていれば、それは自動的にアノニマスの犯行になった。

日本は当時、農村から逃げた人や、厳戒令に叛逆した人のデータを集めて、就職できなくしたり、社会保障の対象外としていた。

そのデータベースに登録されている国民にはランキングが付いていたという噂だが、

既にデータが全て消えてしまったので真実は闇の中だった。

そのデータの中で、俺は最低ランクなんだろう。

ムカイはそのデータベースが消えたことに感謝した。農村に下放された失業者の末裔、教育の必要がない、生まれついての文盲。

そしてマスミはかなり良いランクなんだろう、知らないけど。