グローバル・ラノベと政治同人誌だよ。

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日本の終わりとハードボイルド・ワンダーランド11

 

最近、何かと身辺な物騒なムカイは、何か、身を守るものが欲しい。

仕事帰りに、防犯用具か何かないかと思って養夫婦の実家に戻ると、

物置の奥などから、少年野球で使った金属バットとか、誰のものかは知らないが、刺又とかが出てきた。

「ノリくん、久しぶり。何か探してるの?卒業アルバムとか保険の契約書なら居間の戸棚に入ってるけど」

養母が顔を出す。髪型が変わっていて、似あっていた。ムカイが事情をどう説明していいかモジモジしていると、彼女は笑った。

「偶然なんだけど、今、ノリくんのお父さんが来てるの。

ノリくんと違って、あんまり元気そうには見えないけど。

一緒に、お茶を飲んでくれない。せっかくだから」

孝子さんは、お茶とお菓子をテーブルに置くと、俺たちを2人きりにした。

父はしばらく無言でモゾモゾしていた。

彼は、養夫婦に俺を売ったことは、良い事だと思ってるし、俺もそう思っている。

彼は俺に、文盲の村から出るチャンスをくれた。

彼は、失業者、元ヒキコモリという話もある。

もう40歳か50歳になっているはずだが、

相変わらず、その頼りなさ、社会人としての使えなさは天下一品って感じだ。

互いに連絡を取っていないので、今、何を生業にしているかは知らないが、生きているのが不思議だ。

俺は空腹だったので、彼の皿と自分の皿、イチゴの乗ったショートケーキを2つ平らげた。

彼はずいぶん長い間もじもじしていて、俺と目を合わさないでキョロキョロしたあと、

下を向き、一方的に、自分が農村へ売られた当時の話や、女の話をし始めた。


日本経済が破たんして、厳戒令が敷かれた初期の頃、売春婦、と言う言葉が各所で女たちに投げられた。

その罵声は、未婚の女性のほとんどを対象にしていた。

始めのうちは、戦中派の爺さんや、右翼のレイシストなどを中心に、それから既婚女性に、さざ波のように広がった。

それは不況で発生した、健康な手足と生殖能力を持つ余剰人員を、手当たり次第にひっつかまえて、人手不足の地方に押し込もうという政策意図からで、

その「売春婦(未婚の女性)」を「矯正」させると、つまり、彼女と結婚すると、何と、男には世帯主手当が出た。

不況下で、仕事はなし、男も当然困窮していたから、政府のケツを舐める男は多かった。

だから俺の妻も当然、売春婦だ。

彼女たちが、羊飼いのガザツな猟犬たちに追い立てられて結婚するハメにならなければ、

そのときの俺と結婚してくれそうな女性は、世界に存在しなかった。非モテってやつ、金もないし。

彼女は、女性を喜ばすものを、なにももっていないはずの僕に対しても、感じが良かったし、いや、そういう意味では、売春婦なのかもしれないが、

金を持っている男を目ざとく見つけて攻略しにかかる、ということもないし、普通の気の優しい女性だったと思う。

でも俺たちが村に入って数年後、彼女は自殺してしまった。あとには、みんなの言うところの、売春婦の息子と娘が残された。


「で、親父は何を死にきたの?金が欲しいの?」

ムカイは親父のグダグダした回想をさえぎった。

自分のような棄民がどうして生まれたかと言う経緯を聞くのは、最も嫌いなことの1つだ。

今の俺は経済特区で何不自由ない暮らしをしている、決して金持ちではないけど、突出した不満はなくて、下放世代のグチを聞くのは無駄に思えた。

失望したのか、元々希望なんか抱いていないのか、気まぐれなのか、彼は連絡先を残さずに帰って行った。