グローバル・ラノベと政治同人誌だよ。

ご用件ははninjaid2000@gmail.com規約はGmaiにl準じます

日本の終わりとハードボイルド・ワンダーランド15

 

「向井さんは、皆川村毒鍋事件で、与沢さんたちと同じ席にいたし、警察の捜査も受けてますよね」

「もう5年前以上の話ですよ」

目の前のイエレンが、その話ばかりをするので、俺はウンザリしていた。

ひまわりみたいに堂々としたイエレン、田舎者のトラウマなどは分からないに違いない。ピンストライプの紺のパンツスーツの中に、鮮やかな赤のセーターを着ていた。

お前も、一度くらい、パンツの中に札束をつっこまれてみろ。

ムカイには意志に満ちたイエレンの、無力な顔が想像できない。

あの少女たちが浮かべていた、自分は無力だという諦め、自分の境遇に対する憤りをとっくに通り越した、路上の乞食みたいな顔とか。

「その証言を、どこだっけ?国連?アメリカ議会?よくわからないんだけど」

国連の討論会です。開かれると決まったわけではないんですが。まず証言出来る人がいないと、進む話も進まないので」

ムカイは、海外の陪審員に囲まれた、情けない東洋人の1人である、孤独な自分を想像した。

俺はよくわからない、木の柵なんかが付いた、法廷の高い場所へ引きずられていく。

俺は札束を、田舎少女たちのパンツの中につっこんだ。でも何もやってません。

違います、彼は私を手籠めにしました。私は12歳でした。とても辛かった。

「通常、こういう人身売買は、これといった書類とかは残さずに行われるんですが、

あの件は毒殺事件に発展したので、警察の捜査とか、報道機関とか、けっこういろんなところに、証拠がのこってるんです。それで取り上げるのに有力候補なんです」

 

 

 


「オタクの向井さんって、アノニマスのメンバーだよね」
「マズいんだよね」

社長の元に、サイバーノート社へのハッキング予告について、強制捜査を告げる電話が入り、ついでに元社員の身元を尋ねられた。

「はあ、アノニマスアノニマスにはメンバーがいないのではないですか」

「15年ほど前に、国民のデータが消えただろう。キレイサッパリ。

アレは10歳くらいの天才少年がやったっていう噂なんだ」

「それが向井ですか」

「そういう噂が出回っている。今回のことも、彼がかかわっているって」

「でも彼は、営業社員ですよ。システムエンジニアの知識はそんなにないはずです」

「人は見かけによらないっていうだろう。まあ、明日、10人ほど行く。そのつもりでいて下さい」

警察の人は、一方的に用件を告げて通話を切った。

 

 


目の前に、与沢がいた。

しかし、マスミには、周りに、あ、与沢さん、と頭を下げられ、

自分でも与沢と名乗った男が、本当に与沢なのかは分かりかねた。

後ろの方にいる男も、テレビで見る与沢に似ていると言えば似ている。

ここには背格好の似ている男が何人かいる。


「君の彼氏と僕は、同じ孤児なんだよ」

「そうですか」

与沢は、長髪の男と違い、正面のソファに座ると、唐突に身の上話を始めた。

マスミは、彼が孤児という話もあまり詳しく知らないので、返答に詰まった。

それに、こういうの、危ないフラグなんじゃないのかな。

死人に口なし、いずれ土に埋めてしまう人間の前なら、思う存分打ち明け話ができるってわけで。

与沢が、孤児とかいう話は、週刊誌などで目にしたことが無い。

元々、与沢のことなんか、フォローしてなかったのだが、

車に連れ込まれた後で、少し調べてみた範囲では、むしろ彼は北朝鮮出身だというような噂がほとんどだった。


「でも、ご神体についての、キミの彼氏と僕の解釈の仕方は、全然違う」

「永山さんは、僕の親父を捕まえに来た憲兵なんだ。永山さんが来て、僕は助かったと思ったよ」

永山って、誰だよ。憲兵とか。意味が分からないよ。マスミは、当時のことを知らない。

「親父は売女に逃げられて絶望した。僕は役立たずと言われて、親父に毎日蹴られていた。家にある鋏とかで、斬りつけてくることもあった」

与沢は、スーツの裾をめくった。脛に古傷があった。

マスミは、目の前の与沢の生い立ちが、気の毒とかいう以前に、身の危険を感じた。

もし彼の話が本当なら、幼少時に虐待された彼は、高確率で暴力男。

DNAなのか慣れなのか分からないが、世の中だいたいそういうことになっていた。

こんな人たちに拉致されて下手を踏んだ自分が、ボコボコにされる可能性は高い。