グローバル・ラノベと政治同人誌だよ。

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日本の終わりとハードボイルド・ワンダーランド16

 

その年、女川村では食糧が不足した。

村人は、0歳から5歳くらいの子供を、取り換えて食べた。

証言者によれば、何の肉に似ていたかは、分からない。生まれてこの方、肉はほとんど口にしたことが無い。


大月村では、飢饉の年に、2人の生贄を神社に捧げた。

彼らは大っぴらに、都心へ逃げる相談をしていて、見せしめだった。

 

中央の政治と細々としたパイプをもち、潤っていた方の下田村では、

あるとき脱走者が山賊に捕まり、山賊は下田村に身代金を要求した。

村役場は彼らは村に不要だし払う金もないと返答し、

山賊が逃亡者を村へ返還して逃亡すると、

食糧不足の折り、村人はその肉を煮て食べた。

 

ムカイはイエレンからもらった資料を見て、気分が悪くなり、トイレへ行って吐いた。

文明社会では、そうだろう。子供を煮て食えば、世界ニュースになる。

農作業以外の作業ができないように、子供たちを文盲にした村の生活は、文明社会ではない。

誰がが武力で侵略したのでもないし、ただの飢饉だ。

 

 

 


サイバー・ノート社へのハッキング予告が実行されてからというもの、ムカイたちは、家に帰れなかった。これで3日連続で泊まり込みだ。

ハッキングどころか、北朝鮮の原子炉システムへの攻撃への中継地点、偽の発信地にされたのだ。警察が来た。10人くらい、まとめて。

社長は、また俺を捕まえた。

「向井は、この前、イスラエルの女性と連れだってオフィスを出て行ったじゃん。

あの人呼んできてくれないかな」
「何でですか」
「何でって、わかるでしょ」
「冗談でしょ。もしかして社長は、ユダヤ陰謀説とか信じちゃってるんですか」

「さっき捜査官と話したんだけど」
社長は周囲を見渡してから、また俺を見た。

「ロクでもないんだよ。
まるで俺たちが犯人みたいな言いぐさだ。

誰に頼って良いか分からないんだ。

このままでは反社会的企業のメンバーとして、牢屋にぶち込まれる人が出てもおかしくないよ」


「調べればわかってくれるんじゃないですか?」

ムカイは自分の経験に照らして、かなり怪しい呪文を吐いた。

「警察のIT知識なんか、10年遅れてる」

「そうなんですか」

「そう、そうなんだ。そう、捜査官がまた入ってくる前にサっとすまそう」

社長は俺の背中を押して、しばらく廊下を歩いて行くと、捜査の間、残りのスタッフが待機している部屋のドアを開けた。

「聞いてくれ、良い知らせがあるんだ」

朝っぱらから、徒労感の漂う部屋に、社長の胴間声が響いた。

「向井がモサドに知り合いがいる」
モサドじゃないですよ。止めてくださいよ。

社長の世界情勢の知識は、中学生レベルですか」

ムカイは恥をかかせてでも社長を牽制しようとしたが、

世界情勢の知識が中学生レベルの人は、このオフィスにたくさんいた。

血走った多くの目線が、ムカイに集まった。

 

 

 

 

「向井さんが国連の討論会で皆川村毒鍋事件を証言して、私も知り合いに掛け合って、この会社も救うんです」

「交換条件は向井だけでいいんですか。

とはいっても、俺たちがイエレンさんにできそうなことって、何もないかもしれませんが」

イスラエルのIT系企業は、ドメスティックな日本企業より10年進んでいるという噂だ。

「犯人がもし見つからなかったとしても、

ハッカーを名乗って警察に出頭できる人は、こちらにたくさんいます。

北朝鮮の独裁政府を倒してしまえば、有耶無耶になるかもしれないし」

社長は、大げさな話が、尚更大げさになりそうなので、恐縮した。

北朝鮮倒すとか、そういうのはいいんです、俺たちは。災難を避けられれば、それでいいです」

社長は心の中で呪詛を吐いた。俺たちはスーパー・ハッカーとかじゃないんだ。雇われのしがないエンジニアだ。それもどちらかというと下級の。この会社は、高卒の人も多い。

人にもよるが、平均的には、独学よりは、金を取って開いているスクールの方が、技術を身に着ける効率は良い。

地頭が悪いってことじゃない、金が無かったんだ、俺たちの出身家庭は。社長は、そんな念を、目の前のひまわり女へ送った。

それに、IT起業なんて、誰でも安易に思いつく業種だから、従業員を20人単位で抱えているここは、成功している方だった。

俺たちは、イスラエルに生まれたら、スーパー・ハッカーになっていただろうか。こんなチンケなハッキングくらい逆にやって返すくらいの。

社長は、農村出身で文盲だったというムカイを見た。

日本人が力を持ってはいけない。

それが結局、日本に存在する不問律だった。

これは外国人のせいには出来ない、為政者の問題だ。


経済特区を、赤化した農村部が取り囲んでいた。

これを赤化と呼ぶ人もいれば、ご神体カルトと呼ぶ人がいる。

下放を指揮したのは、中国共産党との太いパイプが噂される汚沢という政治家だった。

そこに神道という冠がかぶされた。

全ての人が結婚していなくてはならず、えり好みは許されない。家族の絆は崩壊した。

これまでの共産主義は全て、倫理の崩壊で幕を閉じていた。

仕事を選べず、好きな生活のパートナーが選べず、相互監視を強いられ、人々の士気は劇落ちした。

ある人は酒におぼれ、ある人は地下へ潜る。

そして国連外資が融資を始め、また0からの再スタートになる。

人は歴史から学ばない。