グローバル・ラノベと政治同人誌だよ。

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日本の終わりとハードボイルド・ワンダーランド17


「向井則夫さんの携帯でいいですか」
知らない声。男の声だ。
ヤローで、ムカイのプライベートの番号に掛けてくる人は、あんまりいない。
「与沢って人ですか?長いロールスロイスで、俺の彼女を拉致したっていう」
「俺はあんたが、俺からの連絡を待ってるんじゃないかと、思っていたところだ」

「どうしたら彼女を解放するんですか。といっても、俺があなたのいうことを、何でもいうことを聞くってことでは、ないですけど」

国連の討論会で、証言するのをやめろ」

「とりあえず、証言はしないですよ。それに関して言えば、そんな条件なんだったら、すごく楽ですよ。よかった」

「そんな口約束は、いらないんだよ。そのユダヤ女が帰国するまで、こちらに来てもらいたい」

隣でイエレンが肩を竦めた。通話はスピーカー機能で部屋中に響きわたり、ついでに録音していた。

「無理ですよ。仕事があるし。どこで聞きつけたのか知りませんが、とにかく証言は、しないです。面倒くさいですから、あなたみたいな人に絡まれるのが」

「彼女の命より大事な会社か?それにその会社は、北朝鮮への攻撃の拠点になっていることがバレて、

警察に反社会的組織として、潰される寸前って噂を聞いたんだが。明日にはもう消えてるかもしれないぜ」

「でも、与沢さんは、人の命をどうこうできるような立場なんですか」

「そんなことは、君も良く知っているはずだけどね、なーんちゃって」

「へえ、皆川村の鍋に、毒を入れたのはあなたなんですか」
「お前だろう」
「だったら与沢さんに都合がいいかもしれませんが、僕は警察の捜査でも真っ白でしたから、違います」

「どうかな。お前が犯人だと知っていて泳がせていたのかも」
「何の為に?」
「例えば、お前の隣にいる金髪の女だよ。
我が国の領土を侵害して秩序を乱す、そういうユダヤ女なんかを、引っかけたりする為にだよ」

「彼女は国連の職員ですよ」

「金村っていうのは、警察を止めて、俺の元で働いているんだ。金村って名前を憶えているか?」

ムカイは、皆川村毒鍋事件の取調のときの、ベットサイドの吐き気を、まざまざ思い出した。毒にあたって、病身の俺を執拗に訪ねた2人の警官の、迂闊な方。

「捜査の進展をペラペラしゃべって、永山って人に出世できないって言われてましたよ」

「出世しないどころか大出世なんだ。

確かに、永山もよくやってるよ。

新しい大日本帝国の重要閣僚にするつもりだ」

大日本帝国って何だっけ。

そういえば、与沢は北朝鮮と日本の統一を目論んでいるとかいっていたっけ。話は、ムカイのついていけない領域に突入していた。

「与沢さんの妄言って面白いですよね。僕の妄言も聞いてください。

例えば、だから、与沢さんの関係者が、うちの会社を使って北朝鮮を攻撃した、とか」

「そこまで知ってるなら、お前は邪魔なだけだよ。俺たちの言うとおりに動いてくれでもしない限り」

頭がおかしい奴だ。ムカイは、しゃべるのが面倒臭くなってきた。

こいつはやっぱり、相手にしちゃいけない奴なんじゃーないのか。

「あなたのお話は、アホみたいで、本当の与沢さんだとは思えないのですが。
やっぱりイタズラ電話じゃないんですか」

「そういうことにしてくれても、いいよね。

俺は与沢さんの関係者だけど、与沢さんじゃない。それは、あってるよ。

俺の声紋は、どこにも残ってないし、

捜査網に引っ掛かる可能性もない。俺は日本人じゃないから、いつでも雲隠れできる。

お前は、この会話を、どうせ録音か何かしてるんだろうけど。ユダヤ女のことだし、お前よりは頭良いよね。だから油断がならないんだけど。

例えば、この録音を警察やメディアにタレこんでも、真に受ける奴はいないよね。

与沢さんの評判を落とそうとするチンピラヤクザの嫌がらせ、とか何とか言われちゃって、

むしろ持ち込んだお前が、そういう輩の一味だと思われたりして」

「俺は政治のことは良くわからないんですけど、あなたたちが彼女を拉致したのは事実なんですよね?」

「いやいや、信じるか信じないかの自由はお前にあるよ。

でも俺が思うのは、お前は、俺の言うことが、嘘くさかろうが、どうであろうが、お前はやっぱり彼女が心配だし、俺の言うことを聞くしかない」

 

 

 

広くないフロアに、多くの人がひしめく。

捜査官たちは、いつまでも出ていかなかった。

エンジニアたちは、保険のつもりで、彼らがどういう操作をしたか、すべて後からチェックできるようにしておいた。

オフィスに押しかけてきた彼らは、そんなに上級の捜査官には見えなかったのだ。

北朝鮮への攻撃が行われたという事件のインパクトの割には。

万一逮捕者などが出たら、裁判所かどこかへ証拠物件にしようと思っていた。弁護士も探した。

社長は揉み手をしながら、彼らに近づいた。

「捜査、ご苦労様です。犯人とか、目星つきました?」

「あなたたちが知る必要はありません」
「そんなことはないでしょう、自分たちの会社です。

今後、悪意を持った部外者の侵入を許さない為のシステムを構築する必要だってあります」

「あんたの会社は、もう終わりだよ」

「何でですか、あなたたちが、うちを犯人扱いしたから?」

「犯人扱いなんかしてないよ。でもね」

捜査官は、座っていた社員用の椅子をキシらせながら伸びをした。

「仮に犯人扱いしたところで、

あんたたちに、ここが震源地じゃないという証明はできないよ。

あんたたちに、そんな技術はないだろう」

「あなたたちこそ、本当にインターネットのことわかってるんですか。

分からないから、うちをハッキングの犯人にして済まそうとしてるんでしょう。

日本国内にある会社が、どこの誰から侵入を受けようが、あなたたちには把握できないから」