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1、このサイトは書き直し中で、文章崩れています

追々直すので少し待ってください。

КГБ future10

 

この畑はほとんど収入にならないと、

ターバンの男は言った。

金が入らない時の保険に、自分たちの食糧にするだけ。

同じ理由で、ヤギや羊を飼っていると。

辺りを見渡すと、緑の少ない、茶色っぽい風景に、白いものが点々としている。

ただ、金にならないと言う割には、豪奢な家が結構建っているし、彼らの入れてもらった家には、ワイドスクリーンとか最新の家電が揃っていた。

そうやってナイジェルとデュークが村を見学しているところへ、トレーナーとパンツ姿の男が駆け込んできた。

「知ってるか、リャザンでテロが起きた。

俺たち、タタールの仕業だそうだ。

本当かどうかは知らない。多分嘘だろう。

でも連中にとっては、嘘かどうかはどうでもいいんだ。

近いうちに、ロシア軍が来るよ。この辺は、タタールの根城と言われている地区の1つだよ。

あんたたちは逃げたかったら逃げたって良い」

ナジェルとデュークは、顔を見合わせた。こんなにすぐに神に追い出されるとは。俺たちの安住の地はないのか。どいつもこいつも、追われてばかりだ。

 

 

 

リャザン市長の邸宅の周辺の公園と宅地の一部が吹き飛んだ。

辺りは黒こげになったり資材が吹き飛んだりして、野次馬とメディアと救援部隊で、ごった返している。


「今回のテロは、民間人が何人が犠牲になったが、市長は無事だ。しかし、私たちは、事態を収拾しないといけない。

ジュワニ、あなたの力を借りたい。

こういうときにばかり利用して申し訳ないと思っている。

ルシーア人市民の多くは、黒人が、嫌いだ。それは認めよう。

だから私たちは、あなたたち黒人と、あまり昵懇にしてこなかった。

黒人とつるんだ売国奴と言われるのが怖いからだ。

でも、今回は非常事態だ。

この機会を利用すれば、市民の悪感情も薄らぐし、あなたの為にもなる」。

ジュワニの元を、市長の側近が訪れた。

今回のタタールの犯行声明はKGBの陰謀で、タタールは決して無辜の人々を巻き込むテロをしない、という記事が世界を巡っていた。

その記事の流通速度は、タタールに報復するという、KGBの声明と、同じくらいか、それ以上だ。

リャザンのテロを巡る情勢は、混乱していた。

「でも、黒人はテロとは無縁です。どのように対応したらよいのでしょうか。何かお力になれれることはありますか」

ジュワニは、市長の求めに応じて、テレビで演説をした。

「私は黒い天使と言われていますが、心外です。

天使に白いも黒いも無いんです。テロは許しがたい卑劣会行為です。


私たちは平和を望んでいる。
ヘイトクライムや麻薬の蔓延しない、平和な社会を望んでいます」

市長の側近とジュワニのNPOのスタッフたちが、苦心して練り上げた、本質的には深い意味のないスピーチだった。

ジュワニ本人、あまり意味が分かっていない。

ただこういうときは、とりあえずっていう感じが大事だった。

 

 

 

 

 


ジュワニがアネットと連れ立って歩いているところは、よく目撃されるようになった。

テロ以降のリャザンの情勢は、ジュワニの扱える範囲を越えていた。

ルシーア人と、黒人とタタールの三角関係。

もっと細かく分かれた少数民族を入れれば、ルシーアの方程式は説けないほど複雑になる。

ジュワニの感受性はこうだった。全ての人種は、同じ人間だ。

それ以上のことが分からない。

ジュワニは前にも増して、自分の政治的なふるまいについて、アネットに相談するようになった。

アネットは海外のフリージャーナリストでルシーア社会と利害関係がないから、相談内容が、どこかに流れて、尾ひれハひれが付くリスクはない。

オフィスにいても、人の出入りが激しいから、彼らは人目に触れない場所を探した。

人目につかなくて、狼藉ものが出没しないところ。

リャザンの一角にある礼拝堂は、昔より来場者が減っていた。人々は忙しくなったし、近頃はインターネット礼拝所なんていうのもあった。

「調子っぱずれのコーラス隊の男の子にも、ついに恋人ができたのかね。目出度いことだよ。

そのうち、空から天使が降ってくるよ。槍が降ってくるんだったかな」

聖堂にしわがれた声が響き、奥から、懐かしい姿が見えた。

ジュワニが子供の頃、よく面倒を見てもらっていた老主教だ。

「恋仲じゃありません。同僚なんです、老主教」

ジュワニの控えめな抗議に、老主教は耳が聞こえないフリをした。

「ワシは、何でキミは結婚しないのかと不思議に思っていたんだ。

敬虔なロシア正教徒にしては、珍しいじゃないか」

ジュワニは戸惑った。

老主教は、子供の頃から、ジュワニが本音を言っても動揺しない、数少ない人間だった。

「私は黒人の将来が心配です。自分の子供に、今の黒人の地位を歩ませたくない」